四(真半陰陽より屡々実験せらるゝものは仮半陰陽であるが)

真半陰陽より屡々実験せらるゝものは仮半陰陽であるが、世の中には睾丸及び規則正しく発育した外陰部の他に、僅かに発育した膣と子宮とを有せる男子があり、また摂護腺を具へてゐる女子もある。此の種類の人間として一時欧州の学界に汎く知れ互つた者は、ジヨーゼフ・マルツオといへるもので、身体発育期の頃よりあらゆる傾向が男性的徴候を呈してゐたが、ただ精液製造の痕跡が無く、また月経も来潮しなかつた。此の人間は始終男子として生活し、二三回冒険事業に従事したこともあり、加之、二回迄淋病に感染したこともあつた。その体格も立派な男性的で、扁胛部は潤く、多くの鬚髭を発生し、乳房の痕跡も無かつたが、併し四肢は繊麗で、骨盤は可なり広潤であつた。死後之を解剖した処、六密迷長さの陰核があり、そして膣、子宮、輸卵管、卵巣、摂護腺を有つてゐた。蓋し女性仮半陰陽者たりしことは明かである。

多くの仮半陰陽者は常に外陰部構造の異常を有つてゐる。即ち男性仮半陰陽に於ては、その陰茎の発育微にして甚だ小さく、尿道は亀頭の前部に開口せずして陰茎の根部或は会陰に開口し、陰嚢は左右癒合せず、その中央部が分裂して漏斗状物を形成し、睾丸は鼠蹊管或は腹腔内に留止してゐるから、その外陰部の外観は殆ど女性のそれに酷似してゐる。実際上、此種の仮半陰陽は比較的多く実験せらるゝもので、其の模範的適例の一として茲に挙ぐべきものは、千八百八十四年仏国医学会に供覧せられたヂユリア・デーといへる者である。頭髪は長く、容貌優婉にして乳房は能く発育し、体毛に乏しく、一見婦人の外貌を具へ、またその膣口も一見した処では通常であるが、驚くべきはその陰核の甚だ大なることで、其の長径二十五密迷を算し強く湾曲して、その外観恰も包皮を有せる亀頭の如くであつた。膣口には毫も処女膜の存在を認めず、膣の長さは九ツオル許りで盲端に終り指を挿入するに子宮頸を触れず、双合診を代ふに、子宮、卵巣らしきものなく、月経の来潮は一度も無い。之に反して大陰唇内には各側に睾丸らしいものを触れた。此の人間は未だ嘗て男性に対して恋愛の情を起したことは無く、結婚したものゝ少しも性交の快を感じなかつた。この実例は男性仮半陰陽の一好例と称すべきものであるが、猶は之に類似するものを挙ぐれば千八百九十三年オイエルモンプレッツの記述した男性仮半陰陽で、此の者は常に女性の服装をなし、その外陰部の状態は前者に酷似してゐたといふことである。