五(之を要するに我国に於ける職業的売笑婦の起源は)

之を要するに我国に於ける職業的売笑婦の起源は、羈旅の荒涼寂寞を極めたがため、公民に非ざる浮浪漂泊の女性が、旅人に色を売つて慰み物となつたのがその起源で、次いで交通の便の漸く開け、河陽津港に船舶の頻り往復するに至つて、水駅にも遊女の群を生ずるやうになり、地方の陸駅にも旅客を迎へる宿舎が出来て、そこにも売笑婦を置くことになつた。即ち上古時代から奈良朝時代迄は、田舎地方を遍歴して行人旅客を相手にした散娼であつたが、平安朝時代に入つてからは船舶の盛んに往復する水駅や、旅舎の設備の出来た陸駅に定住する集娼も出来て、遊廓が起ることゝなつたのである。