一(男子でありながら、その身体及び精神共に女性に)

男子でありながら、その身体及び精神共に女性に類似する者が往々世間にある。所謂女性的男子 Androgyuie 或は女性化 Effeminatio 或は女性体格 Habitus  femininus と称せられるもので、その性欲は通常なる事もあるが、併しまたそれが顛倒して同性を愛する者も決して稀でない。ストルベルは嘗て『医事鑑定時報』の千九百五年度第一号 Aerztiliche sachverstindge Zeitung 1905, Nr. 1 の紙上に女性的男子の著明なる三例を報告したことがある。その第一例は三十三歳の男子で、顔貌、胸廓、骨盤、腕、脚等の状いづれも女性に酷似し、鬚髭も発生せず、音声も男らしからず、而も生殖器は男性であって、たゞ陰茎及び睾丸の小なるのみである。六年前に婚姻したが、未だ一子をも挙けない。併し性交機能は有ってゐる。第二例は三十歳の男子で、顔面には鬚髭なく、骨盤の広きこと、手足の状態などは明かに女性的である。生殖器は全然男性であるが甚だ小さい。陰毛の発生状態は女性的であって陰阜に限割し、異性に対する愛情が無い。第三例は三十八歳の男子で、顔面に鬚髭なく、容貌は婦人に類し、乳房は著しく発育して女性乳房の如く、骨盤の幅広くして、その体格は全く女性的である。陰茎は甚だ小さく、陰嚢内には睾丸を有ってゐない。(潜睾)また陰毛の発生をも認めない。しかし、本人は勃起及び射精機能があると言ってゐる。

右はストルベルの実験しな三例の女性的男子であって、その中第一例と第三例とは共に性欲は通常であるが、第二例のものは異性に対する愛情を欠いてゐた。処が夜久峰太郎氏が嘗て『中外医事新報』第六二三号の紙上に発表しな三十五歳の一男子の如きは、同性に対して愛情を抱き、自ら進んで習慣的鶏姦に耽った女性的男子で、その体格は細長、容貌は女子の如く、躯幹の構造、外形、肌膚等女子に一致し、音声もまた女性的であって、起居動作共に婦人に酷似し、好んで裁縫及び洗濯をすると云ふことである。

上記の如き女性的男子に於て、其の生殖機関の先天性に小なることは、取りも直さず性ホルモンの内分泌が寡少であって、それがために男性固有の第二次性徴が明かに喚起せられず、女性の形質に類似するに至ることを自証するものである。但し生殖機関は小さくとも、性交及び射精機能を有し、また性欲も普通なる者もあるが、併し異性に対する愛欲が薄く或は欠乏して、同性愛の傾向ある者も決して尠く無いのである。這般の点に就いて先づ左に論述したい。