同性愛にのみ耽つて異性に対する愛の殆ど欠如せるものは、男子ならば女型の容姿心性を有し、女子ならば男型の外貌心性を有せるものが多い。此様な女性にては、男子に於けるが如くに、飲酒喫煙を好み、其の言語動作も女子らしき優雅温順なる処が欠けてゐる。キツシユの実験せし或る上流の一婦人は、十六歳にして結婚し、その後六年を経て離婚したもので、其の体格は頑丈で、酒を飲み煙草を嗜み、好んで男装をなし、特に同性を愛する傾向が著るしかつた。併し月経は毎月正規に来潮し、生殖機関も通常であつて、鼻下に薄い粗毛の生えてゐる外には、身体の格好も女型を失つてゐなかつたと云ふことである。
同性のみを愛するものは、既に「男性間に於ける同性の愛」に於て説きしが如く、先天性の素質に基因するので、即ち性欲のみが分化せざる一種の先天性異常に外ならない。併し他の一面には、後天性の原因事情から同性の愛に陥るものも多く、異性に接すること能はざるがため或は友情密にして苦楽を共にせんとする心より或は新奇の刺戟を要求せんがために同性愛に陥るやうになるのである。先天性の異常素質に基因せる同性愛は既に思春期に達する頃より発現するもので、専ら同性に向つてのみ愛情を傾注するものであるが、併しまた、異性に対する愛情の痕跡を有してゐる者も往々見うけられる。之に反して後天性の種々なる原因より同性愛を行ふものに在りては、異性に対する愛情は十分にあり、又た既に之を実行し或は其の実行を要求するものであるが、併し因習の結果は遂に第二の天性となり、性欲の顛例を来たすやうになるので、殊に神経病性素質を有する者に於て這般の傾向が著るしいものである。