女医、産婆、町医者、薬屋の外に浪人などにも身すぎのために堕胎薬を製地販売して利を貪ぼり、裕かに世を送ってゐた者のあったことは、西鶴の『懐硯』の中に『此里の傍に丸之介といへる浪人ありしに、所作すべき業もなく貯へし者もなし。人知ぬ薬を売るに、家中の蓮葉の女、いたづらに妊めるを堕す名誉を得、元手わづかなる薬代に金銭を多く取りて渡世する』といふ文句のあるのを見ても分ります。此様な事実から考へましても、如何に堕胎の盛んに行はれて悪徳不道業者の私腹を肥やさせたかを知り得られます。