それでは、堕胎を職業とした者に就てお話を願ひます。
堕胎が厳厳されたのは明治時代に入ってからで、江戸時代では、表面上に於てこそ屡々禁令を発布し又は女医を取締ったことがあり、天保の十三年に至て遂に一定の刑罰を設け、『男女密通竝びに夫婦相談の上で猥りに堕胎しもたのは男女共に江戸十里四方追故、その情を知って取り計った医師の類は江戸払ひと云ふことになりましたが、然し実際上では一般は寛大或は黙認の熊度を取りてゐたことは先刻私やD君の述べた通りであります。