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今日でも堕胎する婦人の多数は私通のたのに妊娠したのですが、江戸時代では只今D君の言れた如く、不義密通に対する制裁が極めて厳重であったので、私通で妊娠した娘のあつた場合には、先祖に対しては恥辱不孝、世間に対しては面目がないと云ふ一徹心から、強制的に堕胎をさせた親もありました。大近松の作『用命天皇職人鑑』のうちに、長者娘が父なし子を胎んで何と一分立つものぞ、先祖の恥辱なり、(中略)姫が懐妊月重つては世間への聞え、恥を招くといふものなり、胎内にて失ひ、はやはや王子へ奉らん云々』とありますが、父親が自分の孫を闇から闇に葬るべく娘に堕胎を強制的に実行せしめたやうな事も実際には可なり多かったらしく思はれます。