今回のテーマーは江戸時代に盛んに行はれました産児制限の一なる堕胎であります。これは今更縷述するまでもなく、享楽的淫風の盛んであったが為と、生活難とのためでありますが、併し他の一而に於ては、妊娠予防の方法が一般に知られて居らなかったこともその原因をなして居ります。もつとも文政年代の頃から和蘭より舶載した男子用の避妊具が一部の享楽階級に使用された事実は在ります。文政十年版の『閨中女悦笑道具』には之を『莖袋』と称し『革形、薄き唐革にて作り?名をリユ-ルサックと云ふ。懐胎せぬ用なり』とあります。しかし、文政以前までは此様な避妊具は未た世に行はれず又文政以来でも僅か一部の享楽階級に用ひられた許りでしたから、産児制限の手段としては、堕胎と間引とに依るの外はなかつたのであります。就ては堕胎より皆様方の御話を伺ひませう。