若衆歌舞伎の話が出ました序でに『若衆』といふ名義の起原に就て少しく私の考を申上げたい。若衆といふ名義は恐らくは仏家より起つたことゝ思はれます。『真本細々要記』に『文永三年二月二十七日の夜、井水の事に依りて若衆逐電し了んぬ。(中略)老僧も逐電せずば恨むべき由、触れ申したり』とあつて、老僧に対して若衆といふ字を用ひてあります。文永は南北朝時代の年号の一ですから、此の時代の頃には若衆といふ言葉は若い僧衆のことを指した略語であつたのです。